ポルシェ911というモデルの存在はやはり偉大です。ここ10年くらいに作られたスポーツカーのほとんどが、歴代911から有形無形の影響を受けています。さすがに911と比較されることは少ないはずのトヨタ86にしても、おそらく開発者の脳裏には空冷時代の軽快な993型のスタイルがあったのではないでしょうか。特にポルシェがサイズ的にハマっていた日本のスポーツカー開発者は誰しも911の影響からは逃れられないようです。
ホンダの初代NSXは、911の呪縛を破るべく作られた意欲作でしたが、惜しまれつつも生産停止に追い込まれました。なぜ911は50年で7代に渡って作られ続けるのに、NSXは1代で姿を消す羽目になったのでしょうか? 日本のスポーツかーファンの多くは初代NSXを強く支持するでしょうが、このクルマは911の哲学の域まで辿り着けなかったということなのだと思います。個人的な意見としては、より正確に表現するならばNSXは911に勝利したけれども消えました。水冷化された996型は車体が大型化されそのサイズはまさにNSXのパクリでした。しかしNSXの設計をそのまま飲み込んで自らの養分にして911は理想のスタイルを手に入れました。
日産GT-Rの開発陣もまたポルシェに対する「ただならぬ」想いを抱いていたことだと思います。マツダやホンダがポルシェから受けた屈辱?を日本メーカーを代表して濯ぐ時がやってきました。そして日産は予定通りポルシェのプライドを完膚なきまでに叩きのめしたはずでしたが、それでも911は今も「軽井沢に別荘買った時に乗るクルマNO.1」の座に付いたままです・・・。
それでもポルシェと因縁があったおかげで、マツダRX-7は最終型で理想のフォルムを獲得しました。ホンダNSXの存在は伝説化され中古車価格では911に完勝しています。日産GT-Rが世界最速に近づけたのもやはり911の存在が不可欠でした。日本メーカーのスポーツカーを育てた当事者の1人がポルシェだったわけです。
日本メーカーの強烈な追撃にフラフラになりながらも命脈を保ち、誕生から50年目を迎えてなお、新たなる挑戦者を待つ立場の911が「撃墜」される日が来るのでしょうか? 2代目NSXはどうやら911ではなく、バイパーやシェルビーを撃つために作られるらしいです。2代目GT-Rは発売されるのか不透明です。作り続けないと決して911には勝てないと思いますが・・・。
王者991型911の地位を狙って、英国と米国からきた新鋭スポーツが日本で発売されます。1台はジャガーFタイプです。完全に911をベンチマークしたクルマとは言い切れないですが、価格と性能を考えると「仮想ライバル」は完全に911です。オープン2座のみのボディ設定であることと、車重と車幅ともに数字が一回り大きい点で911とは完全に同一視できないクルマですが、日本市場の頂点を目指すのにこれが何らかの支障になるのでしょうか? 特に「車幅」の日本における意義は年々変わってきています。ラグジュアリーカーに於いては、最大限広く取る方がスタイルに大きく寄与するので良いと考える風潮もあります。1810mmの911に対して、1925mmのFタイプの方が間違いなく優雅に見えます。
ジャガーであるので内装の質感も非常に高いです。991型になってやっとプレミアムブランドの仲間入りができそうな水準まで上げてきた911とは、そもそもの出自が違うと言わんばかりの出来映えです。さらにジャガーはスポーツカーの伝統もポルシェに匹敵するほどに長い歴史を持っています。さらにV8搭載なので当然ではありますが「速い」です。いよいよ911の根幹を攻略しかねない素晴らしいスポーツカーができたようです。
もう1台はC7コルベット・スティングレーです。こちらはまだ詳細な情報が入っていません。しかしポルシェとジャガーに並ぶほどの歴史を誇るスポーツカーブランドの老舗モデル「コルベット」なので、伝統と格式では全く劣っていません。さらにドイツのニュルブリックリンクで最速ラップを叩き出すなど、最上級グレードはポルシェGT3や日産GT-R相手に互角以上の性能があるのは間違いないです。ジャガーFタイプとコルベット。ポルシェと並ぶ歴史を誇るスポーツカーブランドがシンクロしてガチンコ対決に突入します。当然911だけでなくお互いに相手をもかなり意識しているはずです。
ホンダも日産もポルシェもHVやEVを使った次世代スポーツカーの開発に余念がないこの時代に、なおV8のガソリンエンジンで走る新型車を発売するなんて、日本メーカーには完全に理解不能の世界かもしれません。それでも心からクルマを愛するメーカーにとっては当たり前のことなのだと思います。その心意気こそが世界の富裕層クルマファンを惹き付けるのでしょうか? ポルシェ・ジャガー・コルベットといった歴史あるブランドが、ガソリンエンジンのスーパースポーツの存在を守り続ける姿勢は素晴らしいと思います。「3台のうちのどれかのオーナーになれるように頑張ろう」と思わせてくれるほど熱い熱いスポーツカーがまだ作られていることは幸せなことですね。
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